過去のお知らせ

第2回アジア環境変異原学会(2nd ACEM)参加報告 - 寄稿文 -

TOX21 研究所 主宰、 環境エピゲノミクス研究会* 代表幹事
澁谷 徹 先生(農学博士)

 第2回アジア環境変異原学会が、12月15日から18日までタイのPattayaで開催された。それに参加する機会があったので個人的な感想を報告してみたい。
 この大会には、世界のすべての大陸からの参加者があり、日本からは20名程度が参加していた。
 11月につくばで開催された第39回大会でも「環境変異原研究」は、今大きな曲がり角に来ているように感じられたが、今回のアジアの学会で、その突破口が、"Epigenetics"によってわずかではあるが見えてきたように感じられた。
 発表の中では、Hayatsu H. が5-methyl cytosineの発見とそのbisulfiteによる検出法の歴史的展開について講演し、今後のこの分野の発展に若い研究者の参加を促した。 さらに、Nomura T.のUrethaneの発がんに関する発表は、直接ヒトへの影響もあり、アジアで生まれた独創的でかつ重要な研究である。
 また、アジア諸国での土壌や水におけるさまざまな重金属の汚染問題は、重要であり、胎児への影響が懸念されている。その解決に関しても"Epigenetics"にあるように考えられた。
 また、東南アジア独特のさまざまな食物成分の抗変異原性の発表にしても、とかく活性酸素消去作用による「抗発がん効果」だけに目がむけられているが、Kasai and Kawaiの発表のように、活性酸素が"Epigenetics"と関連する可能性も示され始めている。さらに、最近中国に帰ったAu,W. W.の環境毒物の暴露によって住民の代謝に関連した遺伝子構成が変化したとの発表は、まだ問題点は多いが「環境変異原研究」の新しい方向を示したものであった。
 今回の学会では、"Epigenetics"という概念によって「変異原研究」を改革する可能性がひしひしと感じられた。発がんを初め、多くの疾患が"Mutagenicity"だけでは十分に解明されないこともあって、"Epigenetics"という概念が登場してきたのである。
 さらに、化学物質による"Mutagenicity"と"Epigenetics"とはDNA損傷とその修復過程において関連して誘発されることが証明されつつある。これらによって種々の化学物質による毒性事象の解明が一段と進むことが大いに期待できよう。
 今後、これらの問題についてアジアから発信される「新しい環境変異研究」の進展が期待される。
 今回のシンポジストの多くは、アメリカなどでポスドクや教員としての経験を積んだ研究者が多かったようである。そのために研究方法などにこれまでの欧米のスタイルを踏襲したのが多く感じられた。これからのアジアの「環境変異原研究」には、この地域の抱える環境における諸問題と真摯に向き合い、アジア人の独創的な知能と技術とによって革新的な研究が進むことを期待したい。
 次回は2012年9月に杭州(中国)で開催される予定である。その時までに、"Epigenetics"を包含した「新しいアジアの環境変異原研究」がさらなる「進化」を遂げていることを期待したい。
 なお、JEMSの"Genes and Environment"でこの学会の特集号が予定されているとのことである。

(2010年12月15-18日開催の第2回アジア環境変異原学会より)
*環境エビゲノミクスホームページ(http://eegs.web.fc2.com/)

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