過去のお知らせ

日本環境変異原学会第40回大会について

 日本環境変異原学会第40回大会が、2011年11月21日〜22日の期間、学術総合センター、一橋記念講堂(東京都千代田区)にて開催された。約300人の参加者が集い、発表に対して活発な議論が交わされていた。
大会の内容は以下の通りであった。

【特別講演】

 本大会の特別講演として、米国のNIHより、Wei Yang博士を招き、「Translesion DNA synthesis:from cancer avoidance to chemo-resistance」(損傷乗り越えDNA合成:がん回避から化学物質耐性まで)という題目で講演がなされた。
損傷乗り越えDNA合成の説明にあたり、DNAの修復について、DNAポリメラーゼの各ファミリーについて等の説明もされた。

【受賞講演】
i) 平成23年度日本環境変異原学会 学会賞
 

 「環境変異原が記したサインを求めて;八木 孝司 氏(大阪府立大学大学院 理学系研究科生物科学専攻)」
 シャトルベクタープラスミド(PZ189)を用いた突然変異研究法の確立に取り組んだところ、この変異がチミンに生じるのではなく、シトシン側に多く生じることが明らかになったようだ。また、この種類の突然変異が色素性乾皮症患者の太陽露光部の皮膚がんのp53遺伝子に多く生じていることから、環境変異原・がん関連遺伝子の突然変異・発がんのリンクが初めて塩基は配列の変化を通じて示された。また、研究法の改良を重ねた結果、Mutation Signatureを塩基配列レベルで明らかになった、との報告がなされた。

ii) 平成23年度日本環境変異原学会 研究奨励賞
 

 「ヒストン修飾を指標とした環境化学物質と光の複合影響に関する研究;伊吹 裕子 氏(静岡県立大学 環境科学研究所)」
 ヒストンH2AXのリン酸化(γ-H2AX)は放射線照射等により生じるDNA二本鎖切断に伴い誘導される。また、γ-H2AXはタバコ煙やベンゼン誘導体等の種々の環境因子により誘導され、生存率測定やゲル電気泳動法によるDNA損傷に比べ、低濃度から検出できることから、環境因子によるDNA損傷のマーカーとして利用できる可能性が見出され、γ-H2AXを指標とすることで遺伝毒性を効率良く評価できたとの報告がなされた。

【シンポジウム1「酸化ストレスと発がん」】

 酸化ストレスを受けることでDNAやRNAから発生する8-OH-dG(8-ヒドロキシデオキシグアノシン)、8-OH-Gua(8-
ヒドロキシグアニン)、8-OH-Guo(8-ヒドロキシグアノシン)の分析に関する内容や、酸化ヌクレオチド(8-oxo-dGTP)の
取り込みによる突然変異誘発に関与するDNAポリメラーゼについて、MUTYH等、5件の報告がなされた。

【シンポジウム2「生殖細胞突然変異研究−動向と展望−」】

 「体細胞変異原の検出は生殖細胞変異原からヒトを守る」との見解は妥当であるかや、改正化審法について、始原生殖細胞によるエピゲノム変異、次世代シーケンサーでの変異検出、放射線(原爆)被爆者の子ども世代への影響など、6件の報告がなされた。

【シンポジウム3「レギュラトリーサイエンスにおける発がんと遺伝毒異性:ICH S1とS2の対話」】

 ICHのS1、S2についてや、in vivo遺伝毒性試験の意義、トランスジェニック遺伝子突然変異試験、多臓器小核試験について等、6件の報告がなされた。
ICH改訂遺伝毒性ガイドライン(S2(R1))が採択され、ステップ4になり、その内容についての説明があった。この採択を受け、OECDでは新しいテストガイドラインTG488が2011年7月に出されたため、化審法も変更される可能性がある。
今後の動向にも着目していきたい。

【口頭発表】

 2日間で合計12件の口頭発表が設けられた。大会の最後に、ベストプレゼンテーション賞の発表があり、以下の発表が各賞を授与された。

秦野賞:マウスをモデルとした、高頻度に発生する生殖系列突然変異が次世代以降の固体に与える影響の解析
内村 有邦 氏 (大阪大学 生命機能研究科)
エルゼビア賞:上咽頭癌のDNAメチル化ゲノムワイド解析によるエピゲノム標的の同定:TEPI2遺伝子のメチル化異常
莫 穎禧 氏 (三重大学大学院 医学系研究科環境分子医学)
オックスフォードジャーナル賞:マウスm5S細胞株を用いた小核の形成過程のライブセルイメージング (2)
川喜多 愛 氏 (大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科)
【ポスター発表】

 全部で110枚のポスターが貼られ、1日目の夕方、2日目の昼にポスター発表の時間が設けられていた。小核試験、ナノ物質関連の内容が多かったように見受けられる。どちらの内容のものも、ポスターの前に人が集まっており、関心も高いようだった。

(2011年11月21-22日開催の日本環境変異原学会第40回大会より)

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